大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

金沢地方裁判所 平成12年(行ウ)5号 判決 2000年11月20日

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告が原告らに対して平成一二年四月一〇日付けでした不動産取得税の賦課決定処分(納税通知書番号三〇九三六及び三〇九三七)をそれぞれ取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

第二事案の概要

一  前提となる事実(争いのある事実については括弧内掲記の各証拠により認定した。)

1  本件各土地の取得

原告Aは、石川県河北郡α八号一八番の田(以下「本件土地一」という。)を、原告Bは、α八号七番の田(以下「本件土地二」という。また、本件土地一と本件土地二を合わせて、以下「本件各土地」という。)を、平成一一年一一月一日、それぞれ取得した(甲一、二)。

2  転用目的の所有権移転等の許可

本件各土地は、いずれも農地法五条一項の転用目的の所有権移転等の許可を受けている。

3  固定資産評価額

本件各土地の平成一一年度の固定資産評価額は、いずれも一三万〇五三六円である(甲二)。

4  賦課決定処分

被告は、原告らに対し、本件各土地に対する不動産取得税をそれぞれ八二万九七〇〇円(課税標準額二〇七四万四〇〇〇円)とする賦課決定処分をし、平成一二年四月一〇日付けで、納税通知書を送付した。

5  審査請求

(一) 原告らは、石州県知事に対し、平成一二年四月二六日、納税通知書の課税標準額がβ町の固定資産課税台帳の登録価格と異なるとして、審査請求をした。

(二) 石川県知事は、原告らに対し、平成一二年六月二一日付けで、原告らの審査請求を棄却する裁決をし、右裁決書は原告らに送達された。

二  争点ー本件賦課決定の違法性の有無

1  原告

本件賦課決定は、地方税法七三条の二一第一項を拡大解釈したものであり、違法である。

地方税法七三条の二一第一項ば、固定資産課税台帳に価格が登録されている不動産については、当該価格により当該不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するものとし、当該不動産について、増築、改築、損かい、地目の変換その他特別な事情がある場合において当該固定資産の価格により難いときは、この限りでないとしており、この条文からすれば、地目の変換がない不動産の課税標準は固定資産課税台帳に登録されている価格が課税標準となることは明らかである。

本件各土地においては、現在も稲作が行われており、また、β町役場の要請により、埋蔵文化財の調査のため、水路に利用されることになっており、宅地として利用することは困難であるから、農地法五条一項の許可を受けていても、宅地並み課税をするのは違法である。

2  被告

(一) 地方税法七三条の二一第一項ただし書の「特別の事情」とは、土地については、用途変更による現況地目の変更又は浸水、地滑り等により土地の区画形質に著しい変化があった場合など、固定資産課税台帳の登録価格によったのでは他の土地と均衡を失し、合理的な結果が得られない場合をいう。

農地の適正な時価は、農地を農地として利用する場合の正常な売買価格を基準として求めることとされているが、固定資産評価基準においては、農地の価値と生産力とは比例する関係にあるとの考えから、種々の生産力に作用する要素(気候、土壌等の収穫可能性や通作距離、市場との遠近のような収益可能性など)に評点を付けこれらを総合評価する方法により行うこととされている(固定資産評価基準解説土地篇八三頁以下参照)。

農地法五条一項による都道府県知事の許可を受けた農地は、許可を受けた時点で当該土地を農地以外に利用してはならないという制限を解除されたものである。換言すれば、当該取得者が所有権を取得したときには農地法の制限を受ける土地ではなく、その制限を解除され、宅地として利用することも可能な土地に変わったものである。このような場合には、例え外見上農地としての形態を止めている場合であっても、実質的には宅地等としての潜在価値を有しているものと考えられ、これを農地としての生産力条件に着目して評価することは不合理であるばかりか、他の宅地等との均衡を失することにもなる。

したがって、このような農地について、法律の明文の規定が存在しないからといって、地方税法七三条の二一第一項ただし書の「特別の事情」に該当しないものとすることは、税の公平性を確保する観点からは是認できない結果となることは明らかである。

そして、「特別の事情」に該当する土地の評価は、同法三八八条一項の固定資産評価基準に従って、近傍の宅地の価格を参考として価格を決定するものとされており、被告はこの規定によりβ町に近傍の宅地の評価額を照会し、その価格により本件各土地の価格を決定したものであるから、原告らの主張には理由がない。

(二) 農地について、転用目的の所有権移転等の許可を受けた以上、宅地としての利用が可能となることから、通常は宅地として利用する場合が多いのであるが、当該農地を宅地として利用するか、稲作に利用するかはその所有者の意思次第である。

大量反復処理が要請される課税事務においては、公平の観点からも、農地法五条一項の許可を受けた農地という同一の範疇に属する事例については同一の処理をすることが当然であり、原告らがたまたま稲作を継続しているという事実は課税関係に何ら影響を及ぼすものではない。

また、石川県河北郡α地内においては、都市計画区域の変更が予定されており、そのため本件各土地について農地法五条一項の許可がされたのであり、原告らが本件各土地を農地として利用するのは、都市計画区域の変更が確定するまでの暫定的なものにすぎないと考えられる。

第三争点に対する判断

一  「特別の事情」(地方税法七三条の二一第一項ただし書)について

1  不動産取得税の課税標準は、不動産を取得した時における不動産の価格とされ(地方税法七三条の一三第一項)、右の価格とは、適正な時価をいうものとされている(同法七三条五号)が、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産については、原則として、当該登録価格(以下単に「登録価格」という。)により当該不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するものとされ(同法七三条の二一第一項本文)、例外的に、当該不動産について増築、改築、損かい、地目の変換その他特別の事情がある場合において、当該登録価格により難いときは、都道府県知事が自治大臣の定める固定資産評価基準(同法三八八条一項)によって、当該不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するものとされている(同法七三条の二一第一項ただし書、同条二項)。

その趣旨は、固定資産税の課税対象となる土地及び家屋の範囲は、発電所及び変電所が家屋に含まれることを除けば、不動産取得税の課税対象となる不動産と同一であり(同法七三条一号ないし三号、三四一条二号、三号)その価格も同じく適正な時価をいうものとされていること(同法七三条五号、三四一条五号)などから、両税における不動産の評価の統一と徴税業務の簡素化を図ったものと解される。すなわち、固定資産税の課税標準は、基準年度に係る賦課期日における固定資産の価格で、固定資産課税台帳に登録されたものとされている(同法三四九条一項)が、固定資産課税台帳に登録される固定資産の価格が適正な時価であるようにするため、市町村長等が行う固定資産の評価及び価格の決定は自治大臣により定められた評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続(固定資産評価基準)に基づいて行うものとされており(同法三八八条以下参照)、決定された価格については固定資産税の納税者に不服申立ての機会を与える(同法四三二条以下参照)こととされており、さらに、このようにして固定資産課税台帳に登録された基準年度の価格についても、第二年度、第三年度において、「地目の変換、家屋の改築又は損かいその他これらに類する特別の事情」等が生じたため、基準年度ないし第二年度の価格によることが不適当、不均衡となる場合には、これによらずに当該不動産に類似する不動産の基準年度の価格に比準する価格によることとする(同法三四九条二項、三項参照)とされている。そして、右のようにして評価、決定され基準年度の固定資産課税台帳に登録された価格は、基準年度の固定資産税の賦課期日における不動産の時価を示すものというべきであるが、不動産取得税の課税上、不動産の評価の統一性を確保し、また、極めて多数に上る不動産の取引等ごとに当該不動産の価格を評価、決定することの煩雑さを回避し、簡易で効率的な徴税を図るという見地からすれば、右登録価格を当該不動産の取得時の時価として取り扱うことは課税技術的に合理性があり、それによって税負担の公平を損なうなどの支障が生ずることは通常は考えられないことから、都道府県知事が不動産取得税の課税標準である不動産の価格を決定するについては、固定資産課税台帳に当該不動産の価格が登録されている場合には、原則として、右登録価格によりこれを決定するものとされているものと解される。

右の趣旨に照らすと、地方税法七三条の二一第一項ただし書にいう「当該固定資産の価格により難いとき」とは、当該不動産につき、固定資産税の賦課期日後に増築、改築、損壊、地目の変換その他特別の事情が生じ、その結果、右登録価格が当該不動産の適正な時価を示しているものということができないため、右登録価格を不動産取得税の課税標準としての不動産の価格とすることが適当でなくなった場合をいうものと解すべきである(最高裁平成六年四月二一日第一小法廷判決・最高裁裁判集民事一七二号三九一頁参照)。

そうすると、右登録価格を不動産取得税の課税標準とすることが公平な税負担という観点からみて看過できない程度に不合理と認められる事態に至った場合は、「当該固定資産の価格により難いとき」に当たるのであって、増築、改築、損壊、地目の変換が例示されていることからすれば、同法七三条の二一第一項ただし書にいう「特別の事情」には、当該不動産自体に物理的変動があった場合はもとより、都市的諸施設の整備など当該不動産の価格に直接影響を与えるような周辺環境や法律上の土地の利用制限などに著しい変動があった場合も含まれるというべきである。

2  そして、農地について、固定資産税の賦課期日後に農地法五条一項の規定による都道府県知事の許可がされた場合は、農地法に定める土地の利用制限を受けなくなることにより、経験則上、その客観的価値に大きな変動が生じるといえるから、これが農地であることを前提に定められた前記登録価格を不動産取得税の課税標準とすることは、右許可を得ていない農地や、既に宅地に転用された土地との比較において、公平な税負担という観点からみて看過できない程度に不合理であると認められるのであって、特段の事情がない限り、当該不動産の価格に直接影響を与えるような法律上の土地の利用制限に著しい変動があった場合に当たるものということができ、地方税法七三条の二一第一項ただし書にいう「特別の事情がある場合において当該固定資産の価格により難いとき」に該当するというべきである。

3  原告らは、この点、本件各土地においては、現在も稲作が行われており、β町役場の要請により、埋蔵文化財の調査のため、水路に利用されることになっており、宅地として利用することは困難であると主張して、これに沿う証拠(甲九、一〇)を提出し、このことを根拠として、農地法五条一項の許可を受けていても、宅地並み課税をするのは違法であると主張する。

しかしながら、不動産取得税は、流通税であり、取得時における不動産の客観的価値に着目して賦課されるものであるところ、現状において農地であっても、農地法五条一項の許可を受けたことにより、その客観的価値に大きな変動が生じたことは前記のとおりである上、甲第一〇号証によれば、β町は、平成一二年九月一四日付けで、原告らに対し、埋蔵文化財発掘調査のための水路の取付工事の依頼をしており、原告らが本件各土地を取得した時点では、右水路は設置されていなかったこと、右水路は、仮設水路であることが認められるのであって、原告ら主張の右の事実をもって、地方税法七三条の二一第一項ただし書に該当するとの前記判断を覆して、農地であることを前提に定められた前記登録価格を不動産取得税の課税標準とすべき特段の事情ということはできない。

本件において、他に右特段の事情に当たると認めるに足りる事実の主張・立証はない。

4  したがって、本件は、地方税法七三条の二一第一項ただし書にいう「特別の事情がある場合において当該固定資産の価格により難いとき」に該当するというべきであり、本件賦課決定は、地方税法七三条の二一第一項に適合せず、違法である旨の原告の主張は、理由がない。

二  本件賦課決定の課税額について

被告は、β町に本件各土地の近傍の宅地の評価額を照会し、地方税法三八八条一項の固定資産評価基準に従って、本件各土地の価格を決定し、不動産取得税の賦課決定をしたと主張しているところ、原告らは、被告がそのような方法で本件各土地の価格を決定したこと自体については、何ら違法性がある旨の主張・立証をしない。

三  よって、原告らの本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡辺修明 裁判官 小川賢司 裁判官 森岡礼子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例